おじさんに教えられた

今から二週間ほど前だったか―

その日は午前1時くらいに仕事が終わり、塾を出て帰路へ。

途中、太るからいけないとは思いつつもどうしても腹が減ったのでフラフラっと長町モール横の吉野家へ入店。

特盛と大盛は無視できるようになった。

では並か…コモサラ(小盛丼とサラダ)か…と逡巡するが、最近になってようやく「あ、コモサラで…」と言えるぐらいまで成長した。

料理が来るまでの間にスマホに来ていたメールをチェックする。

長男(中2)の部活から来ていた。
今週の土曜日の試合、車を出せませんか?

ふぅ~~~……今週もか…。しっかし…
中学の部活になんで親が毎週付き合わなきゃあならんのだ?
仙台駅集合で、そこからバスなり電車で移動する部活もあると聞く。
それでいいじゃないか。どうしてこんなに野球部は過保護なんだ?

と、愚痴ったところで仕方ない。
返信文を書いた。

夜分に恐れ入ります。土曜日は毎週仕事があります。いつもご協力できなくて大変申し訳ありません。お役目ご苦労様でございますm(_ _)m

そのまま送信を押そうとして…ヤメた。

「夜分」っていうのは常識的に午後9時位からせめて11時頃までだろうな。さすがに1時に鳴ったら迷惑か。

相手のメルアドを確認した。パソコンならいいが。

@のあとにezwebとあった。これはダメだ。明日の午前中に出そう。

「夜分恐れ入ります」を削除して「おはようございます!」に変えて保存した。

メシが運ばれてきた。食べながら一日を振り返る。

ああ、今日も怒鳴ってばかりだった。

友達としゃべって自習している女子生徒。
お前ら、さっきからずっとだよね。親に自習しに行くと言って出てきてんだろ?これじゃ嘘つきじゃねえか。

カップル。
ここは勉強する場だ!公園に行って手をつないでブランコでもしたらどうだ!

スマホを操作している女子生徒。
禁止だよー。お前も禁止だ。オイみんな!スマホは禁止だっ!

遠藤ほか社員。
マジメにやってる奴からするとな、「ああ、誰かあのうるさいのを注意してくれないかな」ときっと思ってるはずなんだ。それを注意するのは俺たちじゃないのか?注意され過ぎてイヤになってヤメる奴が出てきても構わないから!見て見ぬフリはすんな!

中2Sクラスの宿題をやってきていない8人。
何でやってないんだよ!なに?忘れましたぁ?
ほう…確か倉庫に竹刀があったな…あ、いや、チェーンソーか。

ハイ?やめてください?
いいんだよ。宿題もやらずにズルズル下がって社会のクソの役にも立たないような人間になるくらいならさ、バラバラになって土に埋められて養分になってさ、そこに草木が生えれば人の目にも留まって他人の役に立てるから。
おい、さっきの8人!何時まででも残ってやっていけよ!

食い終わった。
会計前に50円安くなるアプリを起動させる。

ふぅ~~~……秩序を保つためとはいえ…
やっぱりここんところずっと怒ってばっかりだな…。

お金を払ってため息交じりに店を出た。隣にローソンがあった。

ああ、子どもらの明日の朝食を買わないと。

野菜ジュースは必須。米はあるから、卵とソーセージと納豆…あ、ヨーグルトもつけるか。

店内に足を踏み入れる。すると、レジの中にいた50代位のおじさんが声を上げた。

「いらっしゃいませ!コロッケでき立てでーす!本日は72円でお安くなってますよ。美味しいですよ!」

店内を見渡す。自分しかいない。とすると、今のはオレに言ったのか?

こんな時間に?オレ一人に?あんな大きな声で?

レジ前を通過するときおじさんに軽く会釈して惣菜コーナーへ向かった。

予定のものを買い物籠に入れて再度レジへ。

おじさんが籠から品物を取り出し、バーコードを当てながら声を上げる。「こちら卵一点○○円…」

おじさんの名札を見た。「オーナー」とある。

深夜バイトが見つからないのかな。それとも…

「計○○円になります」の声。財布を開ける。

小銭を一つ一つ数え上げているとき、正面から唐突に聞こえた。
「この時間にお帰りですか?」

「え…?」

手を止めて顔を上げた。そこには柔和な表情があった。おじさんは続けた。「いつも、この時間にお帰りなのですか?」

私はまじまじと相手の顔を見た。なんて優しい顔だろう。

「あ……いつもというワケでは…」
やっと口にしたその言葉に対して、おじさんは笑顔でお辞儀して言った。「お仕事、お疲れ様でございます」

驚いた。よもやこんなところで赤の他人にねぎらいの言葉をかけられるとは。数秒後、全身に心地よいものが流れた。

私はほかに客がいないことを確認してから言った。「おじさん、優しいですね。おじさんこそお疲れでしょうに。エライなあ」

おじさんはいえいえと笑った。

「きっとこのお店は繁盛されているんでしょうね。そんな言葉をかけてもらえるなら私は必ずまた来ますよ。あ、コロッケ美味しいんですよね?2つもらえますか?」

「ありがとうございまーす!」
おじさんは笑ってから言った。「お客さんの方々には大変良くしてもらっています。でもね…ここも今月で閉めるんです」

「えっ…」

絶句。なんと言葉を返したらいいものか分からなかった。

そのあと昨今のコンビニ事情やその店の事情について話を聞いた。なるほど、そうですか…。

「おじさん、また来るよ」
「31日までやってますからぜひ!」

**********************

そして今日。2週間ぶりに夜12時過ぎにその店を訪れた。

おじさんが笑顔で「どうも!」と手を上げた。こっちを知っていてくれたのがうれしかった。

閉店セールだからだろう。店の品物は半分ほどになっていた。

レジで会計を終えたおばさん客がオーナーと楽しそうに談笑している。

その後、若い青年2人が店に入ってきた。お菓子やジュースを買った後、こちらも立ち止まってオーナーと会話をしている。

おばさんにも、青年にも慕われて…
その光景を見て私はなんだかうれしくなった。

缶ビール2本買って帰るつもりだった。
しかし気づけばあれもこれもと買い物籠に商品を入れていた。支払いは4,000円にもなった。

「袋が3つになっちゃった。持てますか?」おじさんが笑う。

「持てますよ。あ…、あとコロッケ2つください」
「はい!毎度ありがとうございます!」

「毎度…か(笑) 明日も来ますよ」
「31日までやってますから来てください」

「コロッケありますか?」
「ああ、あります!」

車に乗って思った。自分はなんてすさんでいるのだろう…。

最近ずっと”楽しい毎日”じゃなくなっていたな。

やっぱり笑顔は大事だな。よし!明日の塾は…笑顔で行こう!

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ジャンル : 学校・教育

プロフィール

Author:hyperlearnig
<塾長> 工藤 豪

大学卒業後、半導体エンジニアの道へ進む。
2年後脱サラし、生徒らとの一喜一憂をもとめて2000年に塾を設立。

地域の学力に貢献しているかは不明も、成績を伸ばしたいと考える彼らのために日夜奮闘中!

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