帰れまテンにて

「さあ、では!
『帰れまテン』の時間がやってまいりました!」

授業時間の5分前(9時15分)、私が中2特進クラスで例のイベントの号令をかけると、すかさず「え~!」「ヤダ~!」と増中女子Nさんと一中女子Kさんが悲鳴を上げました。

「ま~た始まった!お前らのためを思ってやってんのに!」

N「え~だって終わんないんだもん!」
K「ねえ先生!カンタンにして!お願いっ!」

「さっきやり方を説明したよね?
ノートにも書いたはずだ。
さあ、ではいくよっ!」

集団授業の方でときどき行う「帰れまテン」というイベントは、私が白板に数学の問題を一問書き、5分内で正解できたら帰れる、できなかったら帰れずもう一問追加、以後10時までエンドレスに続くというもので、こういう勝負事は男子は俄然燃え立ちますが、女子は勘弁してほしいと嘆くのが常。

しかしこれは、時間内に解かないとアウトになってしまうという緊張感や他人との競争心(これは入試に向かう上で非常に大切な要素)を育むこれ以上ない指導法だと思っています。

私が問題を書いている間、相変わらず女子はワーワーわめいていますが、それに構うことなく「さあ始め!」と言ってストップウォッチをスタート。

すると室内は一気に静まり、みんな集中力MAXで問題を解き始めました。そうそう、これこれ!

やがてあちこちから「先生、できました!」の声。

「どれ?…はい違うっ!(ビシッ!←バツをつける音)」
「え~なんで~!」

「どれどれ?…おお、正解!」
「やった~!ふふふ、帰れる帰れる♪♪」

こうして一人抜け、二人抜けするうちに、×がついた者やまだ答えが出ていない生徒は焦りだします。

「先生、できたっ!」
「ん?…ダメッ!」
「え~なんで!絶対当たってるって!クソ~」

(ふふふ、マイナスがないだけなんだけどね…それを言ってはお前の成長につながらない。そこは自分で気づいてもらおう)

帰れまテンの号令で露骨に嫌な顔をしたNさんをチラ見すると、手は止まり苦悩に満ちた表情。う~ん、相変わらずか…

そんなとき、二人の男子が「じゃあ先生さようなら~」「さようなら~」と大きな声。(バカッ!周りに気を遣え!)

恐る恐るNさんの方に視線をやると、案の定下唇を噛み、足はジタバタ始まりました。ほらキタキタ…

ほどなくNさんがシビレを切らして叫びました。
「先生!もう分かりませんっ!」
「どれどれ、分かった分かった。教えてやるから…」
「あ~あ、私バカだ…」
「そんなことないよ、落ち着いてやればできるって」
「できませんっ!」

…はぁ~あ…いったん感情に火がついてしまってはもう何を言っても効かない…今日はこれまでか…

力はある子なので、丁寧に教えてやると、もちろんすぐにできました。
私がマルをやると、不機嫌そうに席を立ちすぐに帰宅。う~ん…あそこが問題だ…

残りは3人。

最初にイヤだとわめいていたKさんもまだ問題と格闘中で泣きそうな顔。はぁ…教えてやるか…

「符号がおかしいんだよ」

私が答を言うと、すぐにマイナスを書いて「はい」と提出。

「どこで符号がおかしくなったか確認してないよね」
「え~もういいです」

そんなんじゃダメだろ、自分のためにならないよ、と言おうとしましたが、Kさんもイライラが極限に達していてもう何を言っても聞かない様子。

冷静じゃないときに何を言っても意味がないので「まあいいよ」と言ってその場を離れると、「はあ…またお母さんに待たせたって怒られる」とプンプン独り言を言って帰宅。ふ~…あいつも冷静さがあれば解ける子なのに…

そのあと、後ろに座っていた男子もやっと問題を解き終えて、気づけば一人。
その人は…なんと、校内1位のS君ではないですか。

へ~これは面白いこともあるもんだ♪と愉快に背中を眺めていると、グスッグスッと鼻をすする音が。えっ、も…もしかして?

そ~っと前の方に回って顔を伺うとやはり…、顔は紅潮し、何度か鼻をすすっています。そして私に気付き、ティッシュを取り、鼻をかむついでに目元もぬぐいました。

「どれほら、やり方もう一回確認しよ」
私の解説を聞き、もう一度問題に取り組むS君。時刻は帰れまテンの終了時刻、10時になりました。

「終わりました」
「どれ?…おう正解だね!」

プライドの高い男だ。相当悔しかったろう…荷物をカバンに詰め込むS君を見ていると、
「あ…先生!」
彼は鼻水声で言いました。

「明日、中3の授業の前、先生空いてますか?」
「ん…?ああ、空いてるよ」
「じゃあ、明日、夕方頃来るんで、もう一回この問題をオレにやってもらえませんか?」
「えっ…?」

おお!
おおお!
これだっ!
さすが!
よく言ったっ!

「ああ!わかった!じゃあ明日なっ!」

テーマ :
ジャンル : 学校・教育

プロフィール

hyperlearnig

Author:hyperlearnig
<塾長> 工藤 豪

大学卒業後、半導体エンジニアの道へ進む。
2年後脱サラし、生徒らとの一喜一憂をもとめて2000年に塾を設立。

地域の学力に貢献しているかは不明も、成績を伸ばしたいと考える彼らのために日夜奮闘中!

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